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北欧スウェーデンが作り上げた「産もうと思える制度」

「イクメン」という言葉は存在しない、性別関係なく取り組む子育て。

去年の夏、人生で初めての出産をした。妊娠、出産、育児は想像以上に大変だった。私にとっても夫にとっても、全てはじめてのこと。そして病院やシステムなどは全てスウェーデン語。自分の血縁の家族は周りにいない。頼れるのは夫だけ。不安はあったが、スウェーデンでの出産・育児は、女性が自分1人で頑張らなければならないわけではない。そう思えたからここで産む決心ができた。


妊娠後期は、想像より身体がしんどくて大変だった。スウェーデンでは体重に関しては特になにも言われない。むしろストレスの方が良くないから必要なだけ(好きなだけ)食べて良いらしい。おかげで16キロ増えた。友人は20キロ増えたらしい。コロナ禍で在宅勤務だったこともあり、テレワークだとオンラインミーティングでも上半身しかカメラに映らないため、妊娠の事は同僚にも気づかれなかった。

私が産休に入ったのは予定日の3週間前。人によっては予定日ギリギリまで働く人もいる。国の制度としては、条件にもよるが、出産予定日の6週間前から産休に入って手当をもらうことができる。3週間も前に産休に入って何をするのだろうか、早すぎるかもしれないとも思ったが、実際に体験するとあまりにも身体がしんどくて、ヘロヘロで、頻繁に横になる必要があったため、早めに産休に入ったことは正解だった。

スウェーデンで出産して、とても助かった制度は、子どもが生まれそうになったらすぐにパートナーは10日間休みをもらえるというものだった。さすがスウェーデン、高い税金を払っているだけあって、その間お給料の80%が手当としてでる。私が破水してから夫は上司とチームに連絡して、パソコンを閉じて、その日から私につきっきりで、出産に専念できた。

難産だった。破水から娘が出てくるまで4日もかかった。破水してすぐ病院へ連絡するも、「初産の場合はすぐ生まれないから、すぐ入院はできないよ」と返された。これは想定内。

産むギリギリに病院に入って、産んですぐ退院するケースがスウェーデンでは多い。私の場合、陣痛に耐えつつ2日経っても産まれないので入院して、促進剤を打った。そして4日目になって普通分娩は難しいとのドクターの判断で、最終的には緊急帝王切開になった。麻酔を入れてはいるものの、その麻酔が切れるたびに激しい痛みが襲ってくる。想像を絶する長さ、苦しみ、痛みだった。無痛分娩だったが普通に痛かった。幸い、コロナ禍であっても夫も立ち会いできて、病院に泊まることができた。


日本の一部では別室ケアがあるようだが、スウェーデンでは生まれてから赤ちゃんのケアは全て親がするので、生まれたての赤ちゃんが自分の部屋にいる。初めてのおむつ替えも、ミルクも全て夫がした。帝王切開でおなかの筋肉を切っているので、産んだ後は一人で起き上がれず、思うように体も動かない。この最初の2週間は、授乳以外、ほぼ全て、夫が赤ちゃんのお世話と家事をする。「妻は母親だから当然赤ちゃんのことは知っていて、全て担当すべき」という感覚は一切夫の中にはない。育児をするメンズ「イクメン」と言われる言葉はスウェーデンには存在しない。性別がどうあれ、親の役目を果たすだけだ。出産後2日目には退院して良いと言われたが、一人で歩けなかったので、希望してもう一泊することにした。スウェーデンの医療が最先端で費用も全てカバーされるというのは事実だが、全て税金で賄っているわけで、予算が限られたスウェーデンの医療機関はスパルタだ。病院スタッフの数も少なく、出来るだけ早くベッドを開けて回したいという病院側の意向があるので、産むギリギリに入院して、母子共に健康な状態で産んだらすぐ退院して自宅療養になる。パートナーも2週間すぐに仕事を休んで育児に専念することは、その後の育児を自分ごとに捉える意味でも重要だし、なにより頼れる実の家族がいない私にとっては本当に助けられた制度だった。

育児手当もきちんとある。親が2人いるとしたら、2人合わせて480日(約1年4ヶ月)育休手当がもらえる。その期間をどのくらいの割合で分けるかはカップル次第で、パートナーと決めるが、半々で取ることが国からは推奨されている。さらにカップルそれぞれ取らなければならない期間が3ヶ月も確保されていて、それぞれ取らない場合はその分の権利(つまり貰えるお金)が消えてしまう。480日のうち親それぞれが半年ずつ育児休業手当をもらう場合は、普段もらってる給料の金額をベースに約8割が手当としてもらえる。税金でカバーしている関係上、当然それにも上限があって、月に約38万円までという上限(キャップ)はある。会社によっては、お給料に合わせてその上限を超えた分を補ってくれるところもある。年収が低い人や学生など収入がない人でも、最低半年間は月々10万円位貰えるようになっている。

この育児手当が貰える480日を子どもが生まれてすぐ1年ー1年半をメインに貰う人が多いが、全てをすぐに使わなければいけないわけではない。一部は子どもが4歳になるまでに、残りは12歳になるまでなら、いつでも貰えるし、「育児休業を取りたい」と申し出たら職場はNOとは言えない。なのであえて数週間分残しておいて、小学校の夏休みに合わせて親も休暇を長く取ったりする人も多い。育児手当とは別に、子ども手当が毎月1万5千円くらい貰えて、親一人一人にそれぞれ半分ずつ振り込まれる。それがなんと子どもが16歳になるまで支払われる。

スウェーデンの福祉を表す表現として「揺り籠から墓場まで」という言葉があるが、税金が高い分きちんとその恩恵を受けられるようになっていて、妊娠費用、出産費用、育児休業手当、大学まで教育費がほぼ無料。子どもを預ける保育所もたくさんあるし、絶対に入れる。共働きが当たり前の世界だからこそ、両親ともに育休をとって、子どもが1歳とか1歳半ころになったら保育園に預けて仕事復帰するのが一般的だ。自営業ならもう少し復帰が早い人もいるが会社勤めだとそれ位のスケジュール設定をする友人が多い。子どもを持っても経済的負担が少なくて済むことと、保育園に必ず入れるというのが、産む側の安心につながる。


子どもを産んでから、スーパーに売っている離乳食が目に入るようになったが、ものすごい量だった。オートミール(麦のペースト)、果物や野菜ペースト、パスタとかが多い。日本だと離乳食を頑張って一から作るイメージだったが、共働きだと時間が限られているし、栄養バランスよく食べさせるためにも、スーパーで準備されたものを買ってあげるのがスウェーデンのスタンダードのようだ。しかもオーガニックだったり、環境負荷を考えて作っているとラベルに書いているものも多い。自分で作らないことを引け目に感じる必要は一切ない。
紙オムツもCO2排出量を減らして作ったものや、紙資源を守るために木を一定数植えているブランドがあったりと、環境危機に敏感なスウェーデン人たちが買いやすいよう企業努力がされている。

あれもこれも100%は頑張れないし、無理して頑張る必要もないから、自分がやらなくてもできる限りの事は社会や企業がやってくれる。そんなシステムをスウェーデンは作り上げた。自分自身のサステナブル、心と体を持続可能な状態に保てるような仕組みが整っているなあと感じた。これなら経済的負担も少ないし、複数人子どもを産もうと思えるかもしれない。妊娠、出産、育児は想像を超える大変さだ。でも、スウェーデン人が作り上げたこの制度とサポート、男性の育児への意識、そして、赤ちゃんの笑顔があるから、異国の地でも子どもを持とうと思えた。