1. TOP
  2. Köta Stories
  3. みんなが生きやすい社会を目指すスウェーデン

みんなが生きやすい社会を目指すスウェーデン

「お父さんの協力がなければ今の私はいないわ」
上の世代が声を上げて一緒に作り上げた制度と女性の社会進出。

女性も男性も、誰もが「自分の人生をどうしたいのか」を自分のタイミングで考えられて、そして好きなように選べて、キャリアも育児も家庭も、生き方そのものを自分たちで選べるというのは、幸せなことだしそれができたら素敵な社会だと思う。スウェーデンは誰もが生きやすく、生き方を選べる社会を目指していて、それがかなり現実のものになってきている。

海外留学していた時、初めて「グラスシーリング(英:glass ceiling)」 という言葉を聞いた。グラスシーリングとは「会社や組織内で昇進対象となる能力ある人が、性別や人種を理由に低い地位に留まることを余儀なくされる状態」を言う。つまり、昇進が「見えない天井」によって阻まれているという比喩表現で、特に女性管理職などを選ぶときに話題にのぼる言葉。日本で働いていた時、周りのキャリアアップを目指す女性たちは、独身もしくは子どもがいない人たちだった。子どもができた人たちは、どうしても家庭に割く時間が増えていき、時短で働き、キャリア志向ではなくなっていった人が多かった。その点、男性は子どもができても育児休業する人は少なく、したいと思ってもなかなか社会が許さない風潮があったように感じる。

経済雑誌The Economistの2022年3月号の記事に書かれていた「労働市場における女性の役割と影響力に関する調査」の結果は、スウェーデンは1位、アイスランド2位、フィンランドが3位。これは会社の役員、マネジメント、政界の3つのエリアで、どれだけ女性が働きやすい環境が提供されているかと言う点と、どれだけ女性がそのポジションについているかがポイントになっている。日本は28位。つまりスウェーデンでは約4割から5割の管理職や政治家などの社会をリードするポジションに女性がついているという結果だ。スウェーデンでは今年初めて女性の首相が誕生したが、こちらのメディアで取り上げられたのは「なぜスウェーデンで女性の首相誕生がこんなにも遅くなったのか」が議論のテーマだった。ここでは、それだけ男性も女性も半分ずついるわけだから同じように機会が与えられるべきだと考えられている。

スウェーデンがランキング1位という素晴らしい結果になったのは、私たちの親世代、上の世代が作り上げた社会制度があるからだ。自然にそのような社会になったわけではなくて、私たちの親やおばあちゃんおじいちゃん世代が現役の時に、声をあげて頑張った、その努力の賜物だった。

義理の母は74歳。スウェーデン人で、仕事と家庭を両立させて、女性の権利を勝ち取ってきた世代。
医者の家庭に生まれたわけではないけれど、自力でNYのコロンビア大学に通って、その後、今の夫に出会って、協力し合い子どもを3人育てながら、晴れて医者になった。彼女の夫(つまり私の夫のお父さん)はとても協力的な人で、彼女が医者になる勉強をする時、献身的に子育てに励んだ。義父はエンジニアとして働いた後、数学とITを教える高校の教師になった。子どもの体調が悪かった時期には、夫である自分が半年間仕事を休んで、子どもの世話をしたらしい。当時は男性の育児休業制度はなかったし、周りの理解もなかなか得られなかったようだが、親として、夫婦で必要な選択だったからそうしたと話してくれた。
教師よりも医者の方が給与面では上だった。それが親族の食事の場で話題に上がった時や、知人との会話の話題になっても「妻の方が今稼いでいるからね!」と義理の父は嫌な顔ひとつせずに笑い飛ばしたそうだ。義理の母も「お父さん(夫)の理解と協力がなければ、今の私(キャリア)はないし、子どもたち3人も育てられなかったわ。大変だったけど、二人で頑張ってよかった。」とワイン片手に、反対の手は夫の手を握りながら、話してくれた。

男女平等に機会が与えられるスウェーデンで、今、私が恩恵を受けている制度は、そうやってひと世代前の彼女や彼らたちが、夫婦で支え合いながら、声をあげながら、理解し合いながら、そして、必死の思いをして作り上げてきた制度なんだなと実感した。今でこそ平日にベビーカーを押すスウェーデン人男性をたくさん見るが、子育ては母親がメインで責任を持って行うことが当たり前と言う時代を、自分達で崩してきた人たち。選挙の投票率8割を超えるスウェーデン。男女ともに生きやすい社会を作るために何が社会に必要なのかを考えて、今の育児休業制度や幼稚園の整備もして、法律などを変えてきた。そんな彼らが幸せそうに話してくれることが、尊敬もするし、希望の光に見えてとても嬉しかった。

女性もしっかり声を上げ続けることは絶対に必要だけれども、男性も理解を深めて一緒に新しい時代を作るという、男性の意志と覚悟がなければどうやっても難しい。それを乗り越えて、今があるんだなあと、義理の母や父に話を聞くたびに感動する。カップルのうち、どちらでも家庭に割く時間を増やせる。それぞれがキャリアを保ちながら、子育てができる。ここまでの社会を作ってきた彼女たちの労力とエネルギーと成果に感謝して、その意識と努力を「当たり前で当然のこと」と思わずに、しっかりと守っていきたいと思った。



参考リンク:
The Economist
https://www.economist.com/graphic-detail/glass-ceiling-index

関連YouTubeリンク:
【Podcast第5弾】北欧スウェーデンの育児制度など女性の社会進出|シリコンバレーやスウェーデンの男女平等を目指し女性が活躍する社会について