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ペット先進国スウェーデン、保護猫カフェとシェルター

ペットショップに動物が売られていないこの国で、
我が家にやってきたのは、道路で保護された小さな白黒くつした猫だった。

3年前の秋頃、「緊急で猫を保護できる人が必要なんだけど、どうかな?」と夫の姉から連絡が入った。近くに住む女性が道路上で子猫を保護したが、彼女はすでに3匹の猫を飼っていて、これ以上の受け入れは難しいと判断。すぐにキャットシェルター(保護猫施設)に連絡したが、その時ストックホルム市内のキャットシェルターはどこもいっぱいで、受け入れられないため緊急に2週間預かれる人を探すことになったらしい。夫の姉も猫を3匹飼っていて、保護猫をサポートするコミュニティーに入って活動しているが、流石にこれ以上は難しいとのこと。「猫が常にいる家庭で育ったから、猫のいない生活は考えられない」と普段から彼女に言っていたので、彼女は私が大の猫好きと知っていた。社会人として経済的に自立して定住が決まったら絶対に保護猫を家族に迎え入れたいと思っていたが、なかなかタイミングが定まらず、受け入れできずにいた。

セプテム

夫は動物は好きだが、猫を飼ったことはなかったし、アレルギーがあるかもしれないとか、旅行に行きづらくなるかもしれないとか言って、受け入れにあまり肯定的ではなかった。そこで、まずは夫を薬局に連れて行きアレルギー検査をして、旅行に行くときに見てくれる友人を探し、子どもを持ちたがっていた彼に「私との人生を望むなら、まずは猫、それから、子ども。2週間受け入れてみて無理なら保護猫シェルターに渡すから」と説得。「それならやってみよう」と受け入れることに。

夫の姉に助けてもらいながら、警察に連絡して探してる人がいないか確認し、病気や怪我がないか獣医さんに診てもらい、ワクチンも摂取して、マイクロチップ(IDチップ)が入っていないことが確認されたのでチップを挿入。当時お医者さんには「すらっとしてるね。この子は生後4ヶ月くらいだろうね。」と言われた。我が家に来てくれたのが、9月(英:September)だったので「セプテム」と名付けた。

スウェーデンのペットショップには犬や猫などの生きた動物は売られていない。ペットのご飯やベッド、おもちゃや首輪などのペット関連用品が売られているだけ。犬や猫が欲しければブリーダーに行くか、保護された子を引き取ることになる。ちなみにストックホルム周辺にいる野良猫の数は約 30,000 匹と推定されている。犬にはマイクロチップを入れるなどして登録することが義務付けられているので野良犬はかなり少ないようだが、猫に関しては任意だったので、気軽にもらったり買ったりして「やっぱりやーめた」と手放す人が少なからずいて問題になっている。そしてそんな猫たちを保護する施設Katthem(キャットシェルター)が市内には、いくつかある。

我が家のセプテムはシェルターには入らずに保護した方のお家から直接うちに来た。そもそも、保護猫を迎え入れたいと思っていた私は、以前に、とある保護猫シェルターの見学に行ったことがある。その時とてもいいなと思ったのは、空間の広さだった。日本のシェルターのような狭いゲージには入れられていない。人間が6人くらい立って入れるくらいのゆったりとしたサイズのゲージに猫たちは入っていた。シェルターにもよると思うが、これくらい広い場所で保護されていたら、猫たちもそれまでのトラウマや悲しい気持ちがゆっくりでも少しずつ溶けていって、人間への信頼が高まって、リラックスできるんだろうなと感じた。

さらに感銘を受けたルールが、ここのシェルターにはいくつかあった。そのうちの一つは「生後8ヶ月未満の猫は1匹で引き取らないでほしい」というお願いだった。子猫が社会的発達のために大人の猫から学び、一緒に遊べる、そんな環境を作って欲しいと理由からだ。そしてもう一つは、受け入れする人間側の年齢に関するルール。例えば受け入れる人が65歳以上の場合、6歳以上の猫しか選べない。猫の寿命は15から20歳と言われているから、それまでお世話ができるようにという理由らしい。そして70歳以上の高齢者が猫を受け入れることになった場合、万が一お世話ができなくなった時に誰が責任を持って引き取ってお世話するのかを決めて、その人に責任保証書に署名してもらう必要がある。もちろん年齢以外にも色々条件があって、きちんと迎え入れてお世話ができると判断された人だけが受け入れることができる。

猫を引き取るにあたって、少なくとも2回は訪問する必要があって、もし内気な猫だったり特別な事情がある子だったら、4回は会いに行く必要がある。「日本のペットショップでその日に買う」というような突発的な手順でなく、時間をかけて相性を見ていく。そして運命の出会いがあって、無事に施設側と引き取り側の合意が取れたら、枕カバーやTシャツなどを置いていって新しいお家の匂いに慣れてもらうとのこと。そして、ワクチン接種済み、避妊去勢手術済み、IDチップが入れられた状態で受け入れになる。しかも動物保険に入った状態で来るので、新しい飼い主は保険を引き継ぐことになる。さらに受け入れ側は代金を支払って保護猫を引き取る。ちなみにこの施設では2500SEK(日本円で約3万3千円)を支払うことになっている。その費用で新しくシェルターにやってきた他の猫の手術代やワクチン代などがカバーできるし、気軽に引き取られてしまう可能性を下げるためにも良い方法だと思う。

ストックホルムにも「猫カフェ」がある。そこには ブリーダーから来た子たちではなく、新しい家が必要な猫たちがいる「保護猫カフェ」だ。8匹ほどの猫たちが、シェルターからこのカフェにきて、生活している。気に入った猫がいれば、お客さんはこの保護猫カフェを通して、シェルターに連絡して、引き取りたいと申し出ることもできる。一般的な保護猫シェルターは郊外にあることが多いので、ストックホルム市内の中心地にあって何度も会いに来れるのは、とっても良い保護猫譲渡のシステムだなあと思う。

お店の雰囲気はとっても上品で落ち着いていて、徹底的に猫に配慮した形になっている。10歳以下の子どもは入れないし、猫が「逃げられる」場所も奥にあるので、猫が人と触れ合いたくない時はそこに入って休むことができる。その猫たちの引き取り手が決まると、別の保護猫たちが仲間入りする。入場料は55分で179SEK(2300円ほど)と高めで、さらにコーヒーなど飲み物や食べ物を注文する必要があるので、そんなに気軽には行けないけれど、我が家のセプテムを受け入れる前は、私は猫に飢えていたので、夫と一緒に何度か通った。猫たちはみな人馴れした状態で保護猫カフェデビューするので、人懐こくて、最高の癒しの場だった。ペットショップに猫は売られていなくて、そして何らかの理由で手放された猫たちにも、ここまでしっかりした保護システムがあって、その運営がちゃんと回っているのが、動物の命を尊重するスウェーデンならではだなあと思った。ちなみに2023年1月からは犬と同様、全ての猫にもマイクロチップなどの登録が義務付けられることが決まっている。嬉しいニュースだ。


Stockholms Katthem (キャットシェルターHP)
)Java Whiskers (猫カフェHP)
Länsstyrelsen Stockholm
スウェーデンの新しい動物保護法