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現金が消えたキャッシュレス先進国のスウェーデン

支払いはカードか電子決済アプリ。財布も小さくシンプルに。
生活が便利になったのは、10年以上前から始まった国の政策だった。

カフェでもレストランでも、お客同士の会話でよく聞くセリフがある。「じゃあ私がカードでまとめて払うね」「ありがとう。じゃあSwish(スウィッシュ)するね!」

私が初めてスウェーデンに来たのは2011年で、当時はまだ現金を持っていたが、5年ほど前から現金を全く使わなくなったし、見なくなった。ペットボトル一本などどんなに小さな買い物でも、支払いはほとんどがクレジットカードかデビットカード。あとはこの支払いアプリSwish。これはスウェーデンの国立銀行と大手銀行6社が提携して2012年に始まった。スウェーデンには国民IDと銀行口座を紐付けた「Bank ID」という決済認証システムがあり、相手の電話番号さえあれば、このアプリを使ってお金をショートメッセージを送るくらい簡単に送り合うことができる。最初は個人向けだったが、2014年には商業施設向けサービスが始まって、ファーマーズマーケットやカフェなどのお店でも簡単にアプリで支払いができるようになった。道でストリートパフォーマンスをする音楽家へのチップもSwish、教会での寄付もSwish、公共のトイレ使用料もSwish(スウェーデンは公共トイレのほとんどが有料)。むしろ「現金お断り」のお店が多くなってきていて、10年以上前から国策としてキャッシュレス社会が推進されてきた結果だなと感じる。

キャッシュレス化が進んだ背景には、現金輸送の労力とコスト、硬貨を鋳造したり紙幣を印刷するためのコストを削減するためと言われている。税金が高いことで有名でもあるスウェーデンでは、コスト削減となると国民としては嬉しいところ。キャッシュレスにする利点は、コスト削減だけではなく、強盗などの犯罪が減ったり、取引履歴がデータとして残る点からグレービジネス(闇・裏ビジネス)対策にもなるし、個人事業主などから税金の取りこぼしがなくなるというメリットもある。クレジットカードは手数料がかかることがほとんどだが、このSwishのすごいところは手数料が無料ということ。手軽でストレスフリーで送金ができるので、特に若者を中心に大人気。スマホを持っている人なら誰でもSwishのアプリを入れているのではないかというくらい、さまざまな年齢の世代にも浸透している。義理の母は74歳だが、Swishの送金も慣れたもの。ただもっと高齢の方などはいまだに現金を好む人も多いようだ。

普段、現金を使わないということで、スウェーデン人のお財布はとても小さい。クレジットカードを数枚、デビットカードを1枚、免許証1枚、それだけ。なので日本の名刺入れのような小さくてシンプルなお財布を使う人が多い。最近はスマホケースにカードと免許証(もしくはIDカード)を入れて、お財布自体は持たない人もいる。最近は電車の交通系カード(SLカード)もなくなってきていて、クレジットカードやデビットカードなどコンタクトレス決済(非接触決済)を代わりに使うことができる。Swishはこちらに住んでいる人のみが作れるBank IDがないと使えないのが旅行者にとってはネックだが、電車やバスに乗るときは日本のクレジットカードでもコンタクトレス決済ができるものであれば、そのまま使えるのでとても便利。最近は公共交通機関のチケットが買える機械も一駅に何台も必要ないということで、お役目を終えて「年金生活に入るね」というサインを掲げて、どんどん営業終了になっていっている。そしてこちらにきて、ポイントカードや診察券などのカード類がほとんどないことにも驚いた。日本のように各企業ごとに発行されるポイントカードをたくさん持つということはない。キャッシュレスとは少し離れるが、個人ID(日本で言うマイナンバー)が病院やほとんどのお店と連携されていて、メンバーシップになるもので、免許証などの身分(個人番号)を証明できるIDカードがあれば、薬局もデパートもスーパーマーケットもポイントカード代わりになる。信頼できる政府があってこそ成り立つマイナンバーシステムだが、この身軽さはとても気持ちがいい。

キャッシュレス化はメリットばかりではない。電子決済だけに頼っていると、もし何者かに銀行システムがハックされた場合、お金の取引ができなくなり、経済が止まる。インターネットが通じていないと、通信エラーで当然支払いアプリSwishは使えない。万が一のために現金を降ろして持っていても、お店側が現金お断りのところが多いと、普段買えるものも買えなくなる。高齢者などスマートフォンの利用が難しい人もいる。それに、個人IDや銀行のセキュリティー問題が安全性に大きく関わっているため、100%キャッシュレス社会にするのは難しいだろう。ちなみに新聞で読んだことがあるのは、数年前に話題になった、スマホさえ不要になるサービス、体内に入れたマイクロチップで支払いをするシステムだ。チップを手に埋め込んで、専用の端末に手をかざすだけで個人を識別、決済が可能になるもので、「バイオハックス」というベンチャー企業が開発した。すでに鉄道運賃の支払いなどに利用されているらしいが、実際に手にマイクロチップを入れているのはほんの一部で、私の周りや友人で入れている人は見たことがない。


Swish: About Swish
INSIDER: Thousands of people in Sweden are embedding microchips under their skin to replace ID cards
ヒトトキ Powered by 三井住友カード: キャッシュレス先進国・スウェーデンから現金が消えた理由