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幸せを呼ぶスウェーデンの言葉たち、ミーシグとラーゴム

北欧スウェーデン人たちの幸せの価値観や文化を表す「言葉」から学ぶ、ちょうどよく心地の良い暮らしとは。

もうすぐ2歳になる娘が、最近気に入ってよく使っているスウェーデンの言葉がある。それは「Mysig(ミーシグ)」。ぬいぐるみを抱えながらクッションがたくさんあるベッドにころんと転がり「Mysigだね」と何度も笑顔で言う。このスウェーデン語のミーシグ(Mysig)という言葉は「居心地の良い落ち着く空間で、心からリラックスできること」を表す。少し前に日本でもちょっとしたブームになったデンマークのHygge(デンマーク語で「居心地がいい空間」や「楽しい時間」のこと)や英語のcozy(英語で「居心地のよい」や「くつろいだ状態」)に似ているかもしれない。このミーシグの雰囲気をイメージしやすく表すと、寒い冬に暖かい部屋に帰ってきて、暖炉をつけて、暖かいミルクやココアなどを飲みながら、ホッとする、ぬくぬくする感覚、そんな感じ。Mysigはポジティブな言葉で、ゆるく、心温まるような状態を表す。自分に合った心地良い空間を見つけて、そこで時間を過ごすことが幸せと感じる人が多いようだ。

では具体的にこの言葉はいつ使うのかというと、空間や時間に使うことが多い。例えば「空間」で言うと、家とかカフェのインテリアが心地よい感じの時。ライトも白く光る蛍光灯ではなく、暖色系の色合いのもので、間接照明やキャンドルなどを使った空間などを表す時によく使う。手編みのブランケットや帽子など、身に纏うものもミーシグ。ちょっと古びたもの、例えばビンテージやセカンドハンドで買ったような、角が少し欠けたコップなどもミーシグ。木の温もりを感じるような家具やアンティークの食器などが置いてあるような空間もミーシグ。「ミーシグな時間」といえば、イメージしやすいのは編み物をする時間、森に散歩に出かけて自然に触れながらコーヒーを飲んだり、子どもやパートナーとお菓子作りや料理をする時間など。パソコンや携帯などの電化製品をカチカチといじったりゲームしたりするのは違うけれど、お気に入りのブランケットを膝にかけてホットワインを飲みながら、プロジェクターでお気に入りの映画を見るのはミーシグ。高いブランド物で身を固めて最新トレンドの場所にいくというより、当たり前にある日常をほんの少し朗らかにするようなミーシグな時間を過ごすこと、それが幸せという、この感覚を多くのスウェーデン人は持っている気がする。

そしてもう一つ、スウェーデン人の生き方やライフスタイルをよく表している言葉、それがラーゴム(スウェーデン語 Lagom)。「適度にちょうどいいこと」「ちょうどいい塩梅」「やりすぎず、やらなさすぎず」「少なすぎず、多すぎず」哲学的な言葉で、会話などで頻繁に聞く言葉でもある。例えば、ここスウェーデンでは仕事も「やりすぎず、やらなさすぎず」ちょうど良いくらいが良いとされていて、その方がストレスが少ない暮らしができるという考え方を表している言葉かもしれない。もちろん頑張るときは頑張るし、思いっきり力を使ったり、長時間仕事に専念したりすることもあるけれど、無理しすぎないこと。頑張る分、力を抜くときは抜いて、バランスを保つ。スウェーデンのライフスタイルの基本になるようなポジティブな意味の言葉だ。仕事の量もお金もちょうどいい感じがよい。程々に働いて、程々にお金を稼いで、家族や友人と過ごす時間も大切にして、ちょうどよく生きる、それが良いとされている。

では具体的にどんなシチュエーションで使うのか。例えば、量がラーゴムである時。「コーヒーにミルク入れる?どのくらい?」「ラーゴムでお願い」と言う会話を初めてスウェーデン人としたときは、「え、あなたのちょうどいい量と、私の思うちょうどいいの量、多分違うけど?」と思った。適度にそして適当にという感じで、それがちょっと少なめでも、多めでも大体ちょうどいい感じならそれでいいらしい。ざっくりだ。「バイキング(ビュッフェ)に行っても、食べ過ぎずラーゴムがいいね」とも言ったりする。それから、音量やレベルがちょうどいい時にもラーゴムを使う。音楽の音量が大きすぎず小さすぎず、心地よい感じだったり、勉強する時の練習問題の量がちょうどいい時にも「もう大体わかったから、練習問題全部やらずに次に進もう。ラーゴムが大事。」と言ったりもする。基本的にポジティブな意味だけれども、ざっくりで、アバウトで、なんとなくぼやかす感じでもある。程々が一番いい。常に頑張りすぎなくても大丈夫。完璧を求めない。自分にも、相手にも。途中でやめてもいいし、手を抜くときは抜くし、やるときはやる。服のサイズがちょうどいいとか、ちょうどいい大きさの家とかにも使って、それが具体的にどれくらいのサイズなのかをはっきり言うのではなくて、ざっくり、ぼかした感じそのくらいでちょうど良いという時にも使える。

以前コラムでも書いたが、2022年にSustainable Development Solutions Networkから出された調査レポートによると、世界幸福度ランキングでスウェーデンは7位、日本は54位。このミーシグとラーゴムの言葉を生活に取り入れることで、幸福度が高い北欧スウェーデンからヒントを得られるかもしれない。自分にも相手にも完璧を求めない生き方はストレスフリーで、心にゆとりが出る生き方の秘訣なのかも。もしかしたらスウェーデンには、完璧主義の人は、いるとしても、数が少ないのかもしれない。元々ある日本文化にも少し似ている言葉があると思う。例えば「足るを知る」(何事に対しても満足するという意識を持つことで、精神的に豊かになり、幸せな気持ちで生きていける」)とか「食事をするときは腹八分目がちょうど良い」とかそんな感じ。この求めすぎず、求めなさすぎず、中間で、良い塩梅なのがラーゴムと少し似ている気がする。

World Happiness Report
Köta stories: スウェーデン人の働き方からみるウェルビーイング